「AIを取り巻く環境と、これからのリアル」~イベント「Dataiku MEET-UP」レポート
去る2022年12月20日、クリスマスムードに包まれた東京・渋谷にて、Dataiku主催のイベント「Dataiku MEET-UP」が開催されました。イベントは二部構成で、前半は映画『Data Science Pioneer: Conquering the Next Frontier』の上映。後半は3名のパネラーによるトークが行われました。弊社代表・一筆太郎もパネラーの一人として登壇し、AIに対する考え方などをお話させていただきました。
目次
映画『Data Science Pioneer』で語られた、データサイエンスの歴史と、「AI」という呼称が抱える問題
映画『Data Science Pioneer』は、一言で言ってしまえば「データサイエンスの歴史」。簡単なあらすじをご紹介させていただきます。
<あらすじ>
コンピュータが誕生する前から、人間は需要予測などを統計学で行ってきました。初期のコンピュータと較べてCPUは高速化したほか、メモリや記録媒体も大容量化。結果として、より多くのデータを参考にしたデータ分析が高速にできるようになり、Dataikuをはじめとするデータ分析ソフトも誕生してきました。
しかし、こうしたソフトは「AI」と呼ばれているために、SF映画の『2001年宇宙の旅』に登場する人工知能HAL 9000や、『ターミネーター』で人類を滅ぼそうとしたAI「スカイネット」を連想し、誤った先入観を持ってしまう人も多いようです。データ分析を行うソフトウェアには、「AI」以外の新しい名称が必要なのかもしれません。
急速に普及しているデータ分析という分野。現在ではデータサイエンティストという職種が注目されていますが、分析結果を経営にフィードバックしなければ効果は得られません。データ分析に理解のある経営陣がいる組織が成長していき、近い将来、データ分析を行うのが当たり前になる世界がすぐそこに来ているということを紹介する映画でした。
それぞれの立場から見た、AIが抱える問題とブレイクスルー~3名のパネルディスカッション
映画上映のあとは、さまざまな立ち位置でAIに関わっている識者3名によるパネルディスカッション。登壇者は弊社・一筆太郎のほか、一橋大学経営管理研究科の教授・工学博士である神岡太郎氏と、アビームコンサルティング株式会社の川田米太郎氏の3名。
---データサイエンスと皆さんとの関係性を教えてください。
神岡太郎(以下、神岡) 企業の中で、データ分析がどう使われるのかに興味があります。
一筆太郎(以下、一筆) 私はデータドリブンが得意な会社をやっています。PythonでAIを作るというよりは、クライアントのビジネスを理解して、どうやってデータを活用するかを考えて実行するのが強みだと思っています。
川田米太郎(以下、川田) データ分析は2010年から関わっています。データサイエンティストという言葉がなく、ビッグデータという単語が聞こえてきた頃ですね。
---データサイエンスと関わるようになったきっかけは?
神岡 私は大学で心理学を勉強していたので、日常的に統計学は利用していました。現代では、こんなにも大量のデータが扱えるようになったことに驚いています。学生にはマーケティングを教えていますので、大量のデータの中から使えるデータを選ぶという辺りがキモだと思っています。
一筆 会社をデータドリブン中心にしてから3年目くらいです。もともとは映画などのクリエイティブを作っていたんですが、IT系のコンサルをやることになった頃から企業課題と向き合うようになりました。15年くらい仕事をした結果、企業課題を一番解決できるのはデータだという結論にたどり着いたというのがきっかけでしょうか。
川田 私は心理学をやっていたので、特に認知心理学は人間の情報処理を扱う分野なので、コンピュータと実は相性が良く、入った企業がIT系でした。
---神岡さんは、企業様とデータについてやりとりされていらっしゃいますよね?
神岡 僕の知っている限りで言うと、アメリカだと企業の経営層がデータに関心を持つ人が多い印象です。トップ企業に限定すると50%以上ですが、日本の企業では3%程度しかありません。アメリカでは今年、CDO(Chief Data Officer)というポジションを担当しました。彼らは経営判断にAIを使うための責任者ということです。一方、日本企業の温度感は「データサイエンティストを採用しよう」というレベルなんです。そしてデータを整理しようというのが精一杯なんですね。日本はまだ、組織的にデータを使えるような環境がありません。
---今、注目すべきデータ活用の領域について教えてください。
川田 No.1の注目技術はDataikuですね。あと注目しているのはグラフDBだとか、グラフニューラルネットワーク辺りですね。
一筆 僕はいろいろな日本の会社とお仕事をさせていただく中で、経営は勘と経験でやっているところが多いんだということを感じました。特に人が事業を動かしていると強く感じました。この人の勘の部分をデータ分析に置き換えられると思うんです。ある製造業さんですと、商品がどのくらい売れるかわからないけど、原材料は仕入れなければいけない。そこは勘でやっていて、結果として売れすぎて足りなくなったり、売れなくて在庫が大量に残るというようなことは、売上1000億円規模の企業でも起きていると知りました。こういったことをデータ分析やAIで置き換え、リスクを減らして利益を増やせられたらと常々思いながら仕事をしています。そのほかクリエイティブ領域でも、これまではグラフィックを作ってABテストをして決めていくという流れだったのが、画像生成AIでは入力したキーワードを認識して一瞬で画像を生成してくれます。こうしてクリエイティブ領域でも変化が起きていると感じています。
神岡 私にとってはテクノロジーってアプローチの違いだと思っていて。デモクラタイゼーションとでも言いますか、一部のエリートだけがAIを使うのではなく、組織の中で多くの人がAIを使うようになるか。イノベーションのスケーリングと言いますか、AIはエンジニアだけが使えるテクノロジーよりも、非エンジニアでも使えるテクノロジーになっていくべきだと思っています。インターネットの歴史を考えてみると、最初はごく一部の人しか使えなかったものが、今ではほとんどの人が利用できるものに変わりました。AIも特別な技術ではなく、問題や課題を持っている人が、それを解決するために利用する、一般的なものになっていくと思っています。そういう考え方ができる企業が強くなっていきますし、その時に使えるソフトがDataikuだと思っています。
---(会場からのQ&A)日本でAIが一般化するためのブレイクスルーは何だと思いますか?
川田 アメリカ人は「とりあえずやってみよう」というスタンスですが、日本人は「これでいいのかな?」とリスクを気にする傾向があります。とりあえずやってみれば? というのが僕の考えです。
一筆 僕も同じ悩みを抱えています(笑)。ただ、現在ビジネスの現場で成果を上げている人たちの勘よりも、AIの方が成果を上げることは絶対必要です。勘って、単に数値化・可視化されていないだけで、担当者の脳内できちんと適切な特徴量を元にデータ分析された結果から出された結論だと思うんです。でないと事業で結果を出せないですし、大きな会社でも結果を出してるキーマンの予測を上回る結果を出さないと、企業のなかでAIが信用してもらえないんです。事業を動かしているのは人。特に結果を出している人を動かすことがAIの企業内一般化には必要なのではないでしょうか。
神岡 スキルセットよりもマインドセットが大事だと思います。DXを推進しているCDOの話を聞くと、ほぼ全員が「マインドセット」という単語を使うんです。マインドセットを変えなければ人は変わらないと。グロースマインドセットというか、自分が新しいものを取り込んで成長したいという人ほど、DXへ積極的に関わろうとします。解決したい問題があるなら、データ分析を使いたくなる。この発想に至る人が、日本人には少ない印象です。
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こうして幕を閉じたイベント「Dataiku MEET-UP」。参加者は皆、AIが直面している問題に向き合いながら、さらなるデータ活用に向けて新しい一歩を踏み出そうというモチベーションを持てる、貴重なイベントになりました。