会社経営で避けては通れないキャッシュフロー。改善してうまく回すポイントは?

「キャッシュフロー」と聞いて連想するのは、キャッシュフロー計算書の存在だと思います。これは、会社が物理的に持っている現金の状態を示すためのものです。企業活動においては、クレジットカードでの決済と同様、受注=売上=入金ではないため、損益計算書や貸借対照表では追うことができないお金の流れを補うために必要となります。皆さんも、過去に「黒字倒産」という言葉をニュースで聞いたことがあるかもしれません。「黒字倒産」というのは、多くの受注があるにもかかわらず、現金がなくなって倒産することを言います。つまり会社経営においては、常に多くの現金を確保しながら黒字倒産が起きないようにすることが必要となります。
目次
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導入 会社設立時にはキャッシュフローを意識した経営が必須
「キャッシュフロー」とは、文字通りお金の流れを意味します。具体的には、本業の営業活動で得た収入(売上)を投資や借入金返済に回していくら残るかということになります。
企業では営業マンがキャッシュフローを気にしながら値引きに応じることは皆無ですが、小規模事業者や起業早々のスタートアップ企業では、社員全員が役員という場合もありますので、常にキャッシュフローを意識した活動がされる場合があります。
特に、起業時には、まだ、本業での収入がない場合がほとんどなので、資本金や借入金がいつまで持つか(キャッシュアウト)を想定した営業活動が重要になります。また、キャッシュアウト寸前での受注は、「黒字倒産」にもなりかねないので、受注=売上=入金ができるような仕組みを整備しておくことが大切です。
*キャッシュアウトとは、本業や借入金で得た現金が、底をつくことを意味します。
課題 会社のキャッシュフローが悪くなる要因とは?
会社の現金が減る要因は、取引先の倒産、原材料費の高騰、売上の減少、代金回収の遅延や過剰な設備投資など、様々な原因が考えられます。考えられる原因は以下の通りです。
1)取引先の倒産で、本来入るはずの売掛金が入らなくなった
2)取引先の入金が遅れた
3)原材料の値上がりで支払いが増えた
4)損害保険や税金の支払いで現金が減った
5)新規に設備や備品を購入した
6)急な設備故障による修繕費用の支払いがあった
その他にはビジネスで資金繰りが悪くなり、キャッシュフローが悪化する事も考えられます。その原因となるものは、以下の通りです。
1)低収益による資金繰り悪化
2)売掛金の増加による資金繰り悪化
3)在庫の増加による資金繰り悪化
4)売上拡大による資金繰り悪化
5)借入返済額増加による資金繰り悪化
6)過剰設備投資による資金繰り悪化
解決 キャッシュフローを改善する6つのポイント
キャッシュフローを改善する為には、以下の6つの原則があります。
1)利益を出す
売上を増やす、原価を下げて粗利益を増やす、活動原価を下げる(販売管理費)などで確実に利益を
計上することが一番の改善方法です。
2)売上げ債権(売掛金+受取手形)を減らす。
売上が変化しない場合、売掛金を減らさなければキャッシュフローは改善されないので注意が必要です。
3)在庫を減らす
商品、製品、材料、仕掛品、貯蔵品、半製品等の在庫を減らすことでキャッシュフローは改善されます。
4)買入債務(買掛金+支払手形)と売上債権バランスを考える
買掛金を増やすとキャッシュフローは改善されますが、最近の経済状況を考えた場合、買掛金の支払を延ばすと信用不安の原因になります。
5)早期の遊休固定資産を売却
過剰な遊休固定資産がキャッシュフローを圧迫している場合があります。取得した固定資産を利益を生まない状態で放置しておくと、その固定資産の借入金の分負担が生じます。損を承知で早期に遊休固定資産を売却することで、ある程度長期借入金が返済でき、金利の負担も軽減されます。
6)資本政策
自己資本が増加することでキャッシュフローは改善します。自己資本を増やすには増資、配当を抑制、役員賞与を減らすことなどにより利益の社外流出を抑えることができます。

結論 キャッシュフロー経営を成功させるポイントは事業の見直しがキーポイント
多くの経営者が、キャッシュフロー経営を成功させるポイントは無借金経営だと言っていました。
しかし現実には買掛金、手形、クレジットカード決済など、すぐにキャッシュ収入が入らない状況がありますので、金融機関からの借り入れもしながら経営していくことが一般的です。
企業規模が大きければ大きいほど借入金に頼った事業形態となりますが、借入金依存の経営体質を改善してキャッシュフロー経営への移行に成功したキャノン(精密機械製造)の事例をご紹介します。
キヤノンは1937年の創業からの約30年間はカメラ専門メーカーでしたが、高度経済成長期に事業の多角化に着手して電卓、複写機、半導体製造装置事業にも裾野を広げて行きました。
1977年に同社は事業部制を導入したことで1980年代の10年間は高い成長率を誇りましたが、次第に事業部ごとの収益力に差が出始め、赤字事業部についてはなかなか赤字から抜け出せない状況が続きました。
そこで、米国子会社で経理・人事・総務等々の管理部門の役員を歴任した現会長兼CEOの御手洗冨士夫氏は、1995年の社長就任時に米国で取り組んだキャッシュフロー経営に着手。当時、キヤノンは株主資本比率が35.1%、有利子負債依存度33.6%、売上2兆900億円に対して借入金8,400億円という高借金の財務体質でしたが、損益計算書による利益ではなく、キャッシュの最大化を意思決定の基準とする経営方針に変え、7つの不採算部門を閉鎖しました。
更に、これまでのライン生産方式から数人で効率よく製品を組み立てる「セル生産方式」を全工場に導入した結果、23日分の仕掛品と在庫を5日分に減少させました。そして7年間で計3,000億円以上のキャッシュを創出し、実質無借金企業への体質改善に成功しました。