マーケティング
2025/09/11
後藤 亜有

【初心者向け】市場規模を正しく理解する!TAM、SAM、SOMの基本と活用法を徹底解説

「自社の製品やサービスの市場は、一体どれくらいの大きさなのだろう?」

ビジネスを始める際、あるいは新しいマーケティング戦略を立案する際に、誰もが一度は考える問いではないでしょうか。市場規模を正確に把握することは、事業計画の精度を高め、現実的な目標設定を行う上で欠かせません。

そこで今回は、市場規模を測定するための重要なフレームワークである「TAM、SAM、SOM」について、初心者の方にも分かりやすく解説します。

TAM、SAM、SOMとは?

TAM、SAM、SOMは、市場規模を3つの異なる視点から捉えるためのフレームワークです。それぞれが示す範囲を理解することで、自社のビジネスが狙うべき市場をより明確にすることができます。



 


1. TAM (Total Addressable Market) – 獲得可能な最大市場規模


TAMは「Total Addressable Market」の略で、特定の市場全体における総需要、つまり獲得可能な最大の市場規模を指します。自社の製品やサービスが、競合も含めて100%のシェアを獲得した場合の売上高と考えることができます。


  ・例:日本のコーヒー市場全体 もしあなたが新しいコーヒーショップを開くなら、日本国内で1年間に消費されるすべてのコーヒー(家庭用、業務用、カフェなど全てを含む)の市場規模がTAMにあたります。


TAMを把握することで、その市場にどれだけの潜在的な成長機会があるのかを大局的に理解することができます。


2. SAM (Serviceable Available Market) – 獲得可能な有効市場規模


SAMは「Serviceable Available Market」の略で、TAMの中から、自社のビジネスモデルや地理的条件、価格帯などで現実的にアプローチできる市場規模を指します。


  ・例:東京都内のスペシャルティコーヒー市場 先のコーヒーショップの例で言えば、日本全国がターゲットではなく、まずは「東京都内」で、「高品質なスペシャルティコーヒーを好む層」をターゲットにするかもしれません。この、自社がサービスを提供可能な範囲に絞った市場がSAMです。


SAMを算出することで、自社の製品やサービスが実際に競争し、顧客を獲得できる現実的な市場の大きさを把握できます。


3. SOM (Serviceable Obtainable Market) – 現実的に獲得可能な市場規模


SOMは「Serviceable Obtainable Market」の略で、SAMの中から、競合の存在や自社のリソース(販売チャネル、マーケティング予算、人員など)を考慮した上で、現実的に獲得可能と予測される市場規模を指します。事業開始初期の具体的な売上目標と捉えることもできます。


  ・例:自社店舗周辺のスペシャルティコーヒー市場におけるシェア 東京都内のスペシャルティコーヒー市場(SAM)の中でも、競合の有名カフェやチェーン店が存在します。その中で、自社のマーケティング活動やブランド力、立地などを考慮して、「初年度で獲得できるであろうシェア(売上高)」がSOMです。


SOMは、短期的な事業計画やマーケティング戦略を立てる上で、最も重要な指標となります。


なぜTAM、SAM、SOMを分析することが重要なのか?

この3つの指標を分析することは、ビジネス戦略において以下のような多くのメリットをもたらします。


  ・事業計画の現実性を高める: 市場の全体像から具体的な目標までを段階的に落とし込むことで、地に足の着いた事業計画を策定できます。


  ・投資家への説得力が増す: 資金調達の際、市場の潜在的な大きさと、その中で自社がどれだけのシェアを獲得できる見込みがあるのかを論理的に示すことができ、投資家からの信頼を得やすくなります。


  ・マーケティング戦略が明確になる: 誰をターゲットに(SAM)、どれくらいの予算とリソースを投下して、どれだけの売上を目指すのか(SOM)という具体的な戦略を描きやすくなります。


  ・成長戦略の道筋が見える: 将来的には、SOMからSAMへ、さらにはTAMへと事業を拡大していくためのロードマップを描く際の指針となります。

TAM、SAM、SOMの算出アプローチと考察方法

では、具体的にこれらの市場規模はどのように算出していくのでしょうか。主なアプローチ方法と、それぞれの指標から何を考察すべきかを解説します。


算出アプローチの基本


市場規模を算出する方法は主に2つあります。



  1. トップダウン・アプローチ (Top-Down Approach):

    • 大きな市場データから始めて、徐々に自社に合致する市場に絞り込んでいく方法です。

    • TAMの算出に適しています。 信頼できる市場調査レポート、政府統計、業界団体のデータなどを活用します。

    • 例:「日本国内のコーヒー市場規模は年間1兆円」というデータからスタート。



  2. ボトムアップ・アプローチ (Bottom-Up Approach):

    • 個々の顧客や製品のデータから積み上げて、全体の市場規模を推定する方法です。

    • SAMやSOMの算出に適しています。 自社の顧客データ、競合の売上データ、平均単価、販売チャネルのキャパシティなどを基に算出します。

    • 例:「1顧客あたりの平均購入額が月5000円で、ターゲット顧客が10万人いるとすれば、潜在市場は5億円」といった計算。




これらのアプローチを組み合わせて、より正確な市場規模を導き出すことが重要です。


各指標の算出と考察


1. TAM (Total Addressable Market)



  • 算出方法:

    • 業界レポート、政府機関の統計データ(例: 経済産業省、総務省統計局など)、市場調査会社の公開データなどを参照します。

    • 基本的な計算式は「市場全体の顧客数 × 製品・サービスの平均単価」です。

    • 例えば、世界のエンターテイメント市場全体の規模、特定の産業におけるソフトウェア市場全体の規模などが該当します。



  • 考察ポイント:

    • 市場の潜在的な魅力と成長性: TAMが大きいほど、長期的な成長ポテンシャルが高いと考えられます。

    • 新規参入の可能性: TAMが成長傾向にあれば、新規参入企業にもチャンスがあると言えます。

    • 市場のトレンド: 関連する技術革新や社会動向がTAMにどう影響するかを予測します。




2. SAM (Serviceable Available Market)



  • 算出方法:

    • TAMから、自社の地理的な制約(例: 特定の国、地域)、製品の機能や特性(例: 特定のニーズを持つ顧客層)、価格帯(例: 富裕層向け、エコノミークラス向け)、流通チャネル(例: オンライン限定、特定の小売店限定)などを考慮して絞り込みます。

    • 例:「日本のコーヒー市場」がTAMなら、「首都圏のスペシャルティコーヒー市場」がSAM。



  • 考察ポイント:

    • 自社の優位性が活かせるか: SAMは、自社の強みや差別化要因が最も発揮される市場であるべきです。

    • ターゲット顧客の明確化: 誰に、どのような価値を提供するのかを具体的に定義します。

    • 参入障壁: そのSAMにおける競合の状況や、参入に必要なリソース(技術、資金、人材)などを評価します。




3. SOM (Serviceable Obtainable Market)



  • 算出方法:

    • SAMをベースに、自社の具体的な事業計画(マーケティング戦略、営業活動、リソース配分、競合優位性)を考慮して、現実的に達成可能な売上目標を設定します。

    • 具体的な計算式は「SAM × 想定される市場シェア」です。市場シェアの想定は、競合分析や過去の実績、マーケティング投資計画に基づいて行います。

    • 例:「首都圏のスペシャルティコーヒー市場」がSAMなら、「自社が初年度に獲得できると見込まれるシェア(例: 5%)」をかけてSOMを算出。



  • 考察ポイント:

    • 短期的な事業目標の妥当性: SOMは、具体的なKPI(重要業績評価指標)設定の基礎となります。

    • リソース配分の最適化: 目標達成のために、どのリソース(人員、予算、時間)をどこに集中させるべきかを検討します。

    • 競合戦略: 競合他社の強み・弱みを分析し、自社がどう差別化してSOMを獲得するかを戦略的に考えます。





まとめ

TAM、SAM、SOMは、市場という広大な海の中で、自社が進むべき航路を照らし出す灯台のようなものです。



  • TAM: 市場全体のポテンシャルを把握する

  • SAM: 自社が現実的に狙える領域を定める

  • SOM: 短期的な目標と戦略を具体化する


これらのフレームワークを活用し、自社のビジネスが置かれている市場環境を正しく理解することから始めてみてはいかがでしょうか。感覚的な判断だけでなく、データに基づいた分析を取り入れることで、あなたのビジネスはより成功へと近づくはずです。


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