新店舗の客数はどう予測すべきか?——過去データなしで「立ち上がり期間」の客数予測を行う方法
小売業の需要予測において、新店舗特有の「立ち上がり期間」の客数推移予測モデルの設計の考え方を紹介
目次
はじめに
小売業の需要予測において、特に難易度が高いとされるのが「新店舗」の予測です。 既存店であれば、過去の実績や前年同月比を用いることで精度の高い予測が可能ですが、新店舗には参照できる過去のデータが全く存在しないためです 。
しかし、データがないからといって予測を行わないわけにはいきません。最適な人員配置や在庫計画を立てるためには、オープン直後の混雑が収束し、客数が安定するまでの期間をどう見積もるかが、初期運営を成功させるための重要な鍵となります 。
今回は、新店舗特有の「立ち上がり期間」の客数推移をどのように予測モデルに組み込むか、その設計の考え方をご紹介します。
なぜ新店舗の予測は難しいのか
新店舗のデータは、既存店とは全く異なる動きを示します 。
- オープン特需: 開店初日は、一時的に非常に多くのお客様が来店し、突出した数値になります 。
- 急激な減少: 初日のピークから数日〜1週間ほどで、客数は大きく減少します 。
- 変動幅の大きさ: 曜日や立地によって、客数の増減が非常に激しくなります 。
このように動きが不安定なため、既存店向けの予測モデルをそのまま適用しても機能しません 。 しかし、多くの新店舗データを分析すると、「初日に最大化し、急激に減少し、やがて緩やかに安定していく」という減少の傾向(カーブの形) 自体は、ほとんどの店舗で共通していることがわかります 。
今回のモデルでは、毎日の数値を完璧に当てることよりも、この「新店舗であれば共通して辿る推移の形」を学習させることを重視しました 。
アプローチ①:時間軸を「カレンダー」から「経過日数」へ変換する
このモデルを設計する上で最も重要な工夫は、時間の捉え方を変えたことです 。
通常の分析では「○月○日」といったカレンダーの日付情報を重視しますが、新店舗の立ち上がりにおいて、客数を説明するのに最も有効なのは「いつの日付か」ではなく「開店してから何日経過したか」という情報です 。
- × 暦(カレンダー)基準: 3月10日、3月11日…
- ◎ 開店基準: 開店0日目、開店1日目、…開店n日目
全ての学習データをこの「開店基準」に統一することで、モデルは「開店0日目がピークとなり、そこから徐々に減少していく」という傾向を学習できるようになります 。これにより、いつオープンする店舗であっても、共通の予測パターンを適用することが可能になります。
アプローチ②:使用する情報は「未来でも確定していること」に絞る
開店前の段階で1ヶ月先まで予測しようとする場合、使用するデータ(特徴量)の選定は非常に重要です。 ここでは、あえて以下の情報は使用しません 。
- 天気情報: 数週間先の天気予報は外れる可能性が高く、予測の精度を下げてしまう恐れがあるため 。
- 直近の客数実績: そもそも新店舗には過去のデータが存在しないため 。
逆に採用するのは、「予測対象日が未来であっても、現時点で確実に決まっている情報」のみです 。
- 開店経過日数(減少の傾向を表す最も重要なデータ)
- 曜日(週ごとの波を表すデータ)
- 休日・祝日かどうか
- 店舗の属性(立地タイプなど)
不確実な情報を含めて無理に精度を追うのではなく、「実運用時にデータがなくて困らないこと」を最優先し、安定して運用できるモデルを構築します 。
予測結果とその活用方法
この考え方で構築されたモデルからは、以下のような予測結果が得られます 。
1.減少傾向の可視化: オープンの勢いがいつまで続き、いつ頃から平時の客数水準に落ち着くか 。
2.曜日変動の波: 全体的に客数が減っていく中で、週末にどの程度客数変動するのか 。
結論:正解を当てるのではなく「判断の基準」として使う
誤差率などの指標だけで見れば、既存店の予測ほど高い精度は出ないかもしれません 。しかし、新店舗予測において重要なのは「正解を当てること」だけではありません。
未知の新店舗に対して、過去のデータから導き出された「通常であればこのように推移する」という客観的な予測ラインを持っておくことに価値があります 。
この予測ラインがあれば、現場は「予測よりも客足が鈍いから、早めに販促を打とう」「予測通り落ち着いてきたから、シフトを通常に戻そう」といった意思決定を、経験則だけでなくデータに基づいて行えるようになります 。
「未来の不確実な情報は使わず、開店からの経過日数に着目する」
このアプローチは、先が読みづらい新店舗の計画において、確かな判断材料となります。
