【SiNCE的雑談】コカ・コーラ社のVertex AI事例をメンバーで妄想的に会話してみた
世界一自動販売機が多い日本で、販売エリア1 都 2 府 35 県に約 70 万台を展開するコカ・コーラ ボトラーズジャパン。自動販売機の製品構成は、Vertex AI と BigQuery を利用し、自社の自動販売機の数十億件のデータを処理・分析して戦略的に決定されている。
組織としてAIをオペレーションに組み込んだコカ・コーラ ボトラーズジャパンの成功要因を、Vertex AIのコンサルティングを行う株式会社SiNCEのエンジニアが自由な視点で分析してみた。
現場を味方に付ける強み
一筆太郎(以下、一筆)
コカ・コーラの事例を見て、どのように感じましたか?
鶴見悠太郎(以下、鶴見)
実際に営業担当者の方が現地に赴き、出てきたデータと現場感を突合するという話があって、それがとても大事だと感じました。結局、AIが出しているのはただの数字で、実際どうしてそうなのかは人が行って確かめる必要がある。それはやらなきゃいけない部分なんだなと。AIが万能というより、そこに現場の目が乗っかることによってはじめて意味のあるデータ分析、アウトプットになるのかなと思いました。
一筆
AIの予測精度に関してはどうですか?
鶴見
今まで営業マンが勘でやっていた部分がデータによって見えてきて、拾えていなかった部分の情報や特徴量がAIでわかるから、より良い製品構成になったという話でしたね。
山窪智春(以下、山窪)
データ分析が営業の日々のルーチンになっていて、分析の内容から営業担当者が発注を決めるという運用が100%になっているそうです。僕がすごいと思っているのは、『次はこういう分析できないの?』という問い合わせが来て、さらにデータが集まり、精度が上がるという良いサイクルができていること。組織的にうまく機能してるんだなあっていうのが感じられますね。
一筆
山窪さんは、さまざまな案件をやっている中でどういうところが難しいと感じていますか?
山窪
例えば文具メーカーだと、営業などの売り上げを立てている方の意見が強く、なかなかAIが予測した結果通りに注文するのは難しいという話があります。AIはけっこう不確実性があるので、予算が通りづらいとか。
一筆
オペレーションの複雑性の問題もあるのかなという気がします。例えば自動販売機はオペレーションがある程度決まっているけれど、文房具だと納品する会社もさまざまだったり、それぞれ要望も違ったりして、オペレーションが複雑じゃないですか。
山窪
確かにそうですね。
鶴見
コカ・コーラでも同じような苦労があったみたいですよ。モデルの予測結果に対し、どうしてそういう判断になったのかを現場の営業担当者に理解してもらうのに一苦労だったようです。やはり、営業の方に納得感を持ってもらうのは大変なんだろうと思います。
コカ・コーラの事例では、モデルが示した新規設置場所の候補を地図で見ると「そこに置くメリット無いよね」というような場所を指している。けれども、実際に行ってみるとお店があって、人が集まる、自動販売機のユーザーが多そうな場所だったということが判明したとか。
AIが経験に反するようなアウトプットを出してきて、「それおかしいじゃん」と思うんだけど、実際やってみると本当にその通りになったというような成功が重なると「ああ、AI信じられるね」となる。けれど、ただ出されただけだと「我々の知ってる感覚とは違う結果だから多分、それ違うよ」となって、AIがオペレーションに組み込まれない。AIの信頼度がないのが、組織にインテグレーションしない理由なのかなと思いますね。
AIと人間の信頼関係を構築する
山窪
さっき鶴見さんが言っていたように、今回の案件では実際に営業マンが訪れて、なんでそういう結果が出たんだろうって検証しているのが強みですよね。
鶴見
そうですね。組織としてやったのか、営業マンの熱意なのかはわかりませんが、そこがあるからこそ、AIと人間の信頼関係ができたのかなと思います。頭ごなしに否定しないで、きちんと読み解いたところが上手くいった理由かなと。
山窪
「スポーツ施設の近くはスポーツドリンクが売れるだろう」って僕なんかは思っちゃいますけど、実際は子供の習い事の付き添いで保護者が買ってて、ミルクティーとか甘いものが売れるなんて、なかなかわからないですよね。
鶴見
本当にそうですよね。ただ、これって人間がデータ分析して導き出したシナリオじゃないですか。結局のところ、AIが出した結果に対して、やっぱり人間が解釈しないことには意味がないんだなって思うんですよ。人間がどこまでちゃんと見るかなんですよね。AIはただの数字なんだなって気がします。
山窪
確かに。
一筆
さっき鶴見さんが言っていた「AIと人間の信頼関係」っていうのはいい言葉だね。
鶴見
まあ、AIが人間のことを信頼してるかはわからないですけど(笑い)、人間がAIを信頼するというのは大事だなと思いますね。
山窪
信頼関係を得るためのデータ可視化とか、シミュレーションが必要なのかなと思っています。「これぐらい需要がある」といっても、AIの予測結果に基づいてそのまま発注できるかというと、お金が絡んでくるので二つ返事でイエスとはいきません。でも、「過去のデータを使ってシミュレーションしたらこうでしたよ」というのが可視化されることによって、ある程度信頼できるという判断ができるのでは。
一筆
AIの技術的にできることでも、実用化するのは難しい。そこで、組織としてAIと人間の関係をうまく作ったことに価値があるんだよね。
鶴見
組織にちゃんと入れ込んだ、オペレーションに組み込めたというのが素晴らしいところですね。
膨大な自社データを処理するためのGoogle Cloud
一筆
これはVertex AIでやってるの?
鶴見
AutoMLとCustom Model Trainingなので、Pythonで回すようなこともやっています。いろいろ使ってるみたいですね。BQML(BigQuery ML)も使っています。
山窪
でも、どうやってやってるんですかね?多分、地図の情報とかもインプットとして使っていますよね。これ、例えば近くにスポーツ施設があるかどうかという判断が結構大変な気がするんです。地図情報、施設情報を取り込んでないと判断できないと思うんですよ。そのデータを持っていて、それに対してコカ・コーラの自販機がどこの座標にあって、自販機とスポーツセンターがどれくらいの距離にあるかというのがデータ上把握できていないと、特徴量として使えないですよね。
鶴見
設置した場所に対して、売上のデータが学習データとしてあるはずですもんね。
山窪
他社の自販機の情報も拾ってて、競合の自販機が置いてある場所を避けようとか、そこまでの判断をしているのであれば、すごいことをやっていると思います。データをどうやって取ってきてるんだろう。
鶴見
データを買っているんですかね?自分たちでデータ取りに行ってるとしたら、とんでもないことですよね。
山窪
しかもこれ、刻々と変わるんですよ。他社が自販機を置いたらそれでもう概念が変わっちゃうんです。
鶴見
確かに、再学習しているならとんでもなくコストがかかりますよね。例えば、確度が高そうなところが赤、低そうな所が青といったふうにマッピングされていて、赤のところから営業マンが実際に行ってみて「あ、ここ他社の自販機あるからナシだね」とか「あ、ここいいじゃん」みたいな、アナログとデジタルを組み合わせる事で解決しているのかも。モデルが新規設置場所として予測した場所に実際に行ってみているようなので。自社の70万台のデータを持ってるわけですからね。
山窪
もしくは、行政とかがやってるオープンデータとか、そういうのちゃんと入れてやってるんじゃないかな。
鶴見
例えばドラッグストアでいうと、マツキヨと、ココカラファインと、色々あるじゃないですか。それぞれがある程度、同じ重み付けで解釈されなきゃいけないはずなので、地図データに対して一般名称に落とし込んだラベリングをしてるのかなと思うと、ちょっと気が遠くなるんですよね。どうやってやってるんだろう?
山窪
データとして提供している会社があるんじゃないでしょうか?だとしてもすごいことですよね。
一筆
似た例でいうと、フランチャイズ展開しているところがどこに出店するべきかという話をよくするけど、大体みんな見当もつかないよね?
例えば、塾のフランチャイズ展開で、実は駅からすごく遠いエリアで意外とヒットしたみたいなことって、やってみて気づく経験則であることが多い。予測でそれが出るのは余程自社データを持ってないと厳しいような気がします。
鶴見
ですよね。これ、70万台あるからこそのデータですよ。
一筆
あと相関はあると思うんだよね。すると、相関をどう取っているのかっていうのが気になるところではある。
山窪
単純に人流だけじゃないと思うんですよね。人流×属性みたいなデータがあって、それによって売り上げを予測してるというような感じでは。
一筆
例えば、スポーツセンターで子どものスイミングスクールをやっていて、そこによく来るのが子供だっていうのが分かっているんだとしたら、特徴量として、年齢のデータとかも入ってるってことですよね?
山窪
入っている可能性もありますね。コカ・コーラのアプリがあるという話をさっき鶴見さんとしたんですけど、そのアプリを使って購入すると、誰がどこで何を買ったかというデータが取れるんですよ。全員がアプリを使うわけじゃないので、データとしては数は少ないと思うんですけど、それで傾向を知ることができるのではないでしょうか。それによって、このエリアはどんな人が購入する可能性が高いというようなデータが、もしかしたら取れていて、それを特徴として使っている可能性はあります。事例の中ではそんな話は出てこなかったですけどね。
鶴見
ただ、それをやらないと年齢のデータが取れないので、こんなデータにはならないはず。だからやってるんでしょうっていう見方です。
一筆
まあ、「事例をベースに妄想してみた」企画ということで。
一同(笑い
組織をデータドリブンに動かす
山窪
70万台というスケールでやって、しかも組織的に運用がうまく回っているというのはかなりすごいと思います。強烈ですね。
一筆
どういったところがすごいと思いますか?
山窪
まず、組織をデータドリブンに動かすというのはそんな簡単なことじゃないんですよ。それが100%なされていて、しかも営業がデータを分析しながら設置している。それが強烈だなと僕は思ってます。さらに「こういうのできないの?」という要望が上がってきて、それでデータが集まって、より精度が上がっていくという、データフローが組み込まれた形で動いているという点が、かなりレベルが高いなと思いました。
一筆
会社によって、AIの組織的な立場みたいなのが異なりますよね。この事例では、AIの立場を良くするというのが上手くいったんでしょうね。
山窪
そうですね。
鶴見
よくある「DX担当部署だけ頑張ってて他がついてこない」といった事態にならず、営業マンも巻き込めたところが一番の成功ですね。
一筆
何がきっかけでAIの立場を確立できたと思いますか?
山窪
小さい成功を積み重ねていって、だんだん、大きくしていったんでしょうかね。まずは営業が楽になってくれるような枠組みを作ってあげたりとか。完全に想像ですが……。
鶴見
AIが言ったことは「ほら、そうじゃん」って言える例をいくつも作っていったのかな。スモールスタートから始めていって。
一筆
例えば、アメリカでもうまくいった事例があって、それを日本に持ってきたというようなことは?
山窪
それもありそうですね。かなり説得力があると思います。
鶴見
なおかつその成功事例で、実際に自分たちが使うモデルが成功しているパートがあると、より説得力がありますね。
一筆
でも、そういえばアメリカにはほとんど自動販売機なかったですね(笑い)
平尾さんはどう思いますか?
平尾今日太(以下、平尾)
単純にデータが多いからでしょうか?配送でAIを使えているのも、道のデータがあるし、道の混雑具合も分かるし、データが豊富にあってアプローチしやすいからなんです。
自販機も配送やるのとほぼ一緒かなと。「人がこう流れて、この辺で止まりやすいからここで自販機買いやすいよね」とか、比較的予測しやすいのではないかと思います。
一筆
何のデータを取ってきたんだろうって妄想をみんなでワイワイ話す企画もアリですね。
本日はありがとうございました。
参考:https://cloud.google.com/blog/ja/topics/customers/coca-cola-bottlers-japan