計量経済学(Econometrics)とは
計量経済学とは、統計学・経済学・データ解析などの数学的手法を用いて実証的に検証する学問分野です。最低限の概念やルールを学ぶことで、計量経済学を用いて様々な実証分析が適切に実施できるようになります。計量経済分析の興味深さを少しでもお伝えできればと考え、本稿では「計量経済学の概要」について解説します。
はじめに
計量経済学とは、統計学・経済学・データ解析などの数学的手法を用いて実証的に検証する学問分野です。筆者は、これまで計量経済学の分析手法を使用して、「グローバルバリューチェーン貿易への参加がCO2排出量に与える影響-OECD諸国におけるパネルデータ分析-」、「産業の高度化が賃金に与える影響」、「国際観光需要の決定要因」などをテーマに実証分析をしました。その他にも「ゆるキャラ導入の集客効果」「お笑い芸人の持続期間」などの面白いテーマも実証研究ができます。計量経済学は統計学・経済学・データ解析といった多くの難しい要素から成り立っており、非常に難しいものです。しかし、最低限の概念やルールを学ぶことで、計量経済学を用いて様々な実証分析が適切に実施できるようになります。そこで、計量経済分析の興味深さを少しでもお伝えできればと考え、本稿では「計量経済学の概要」について解説します。
計量経済学の有用性
社会・経済法則性や関係性を「見える化」する
計量経済学にはどのような活用方法があるのでしょうか。学問としては、モデルや仮設、法則性・関係性などが現実経済にどの程度当てはまるかを検証するツールとして活用されます。理論モデルが現実から乖離しないため、また、現実経済で生じている事象や問題を理論モデルに反映させるため、経済理論と現実理論の「架け橋」の役割を担うのが計量経済学です。
ただし、現実経済では多様な個人や企業がさまざまな行動をとり、突発的な事態や不規則が動き、自然災害など、さまざまなショックが生じています。そのため、経済活動を描写したデータには経済理論が示す法則性・関係性をみえにくくする大量のノイズが含まれており、それらを確認することは至難の業といえます。そこで計量経済学では、データに含まれるノイズを可能な限り除去したり、観測されない部分も統計的に考慮したりすることで、表面的にはみえにくい経済現象の本質的な姿を見出そうとします。つまり、計量経済学は現実に把握しにくい法則性・関係性の「見える化」を行うツールと捉えられます。
計量経済分析の流れ
計量経済学を用いた実証分析とは具体的にどのようなものなのでしょうか。本章では分析の概要をつかむために、詳細は省きますが、標準的な流れを紹介します。
ステップ1:理論的背景の確認 (仮説の設定)
計量経済学を用いた実証分析を行う際は、必ず何らかの理論的背景が必要です。データがあるから実証分析してみる、というスタンスは「理論なき計測」と批判されます。
ステップ2:実証モデルの設定
理論的背景や仮設から何を検証するか決まったら、具体的にデータを用いた分析アプローチを検討します。データを用いて変数間の関係性を計測する手法の1つに回帰分析があります。
ステップ3:データの選定
次に、パラメータを推定するために、被説明変数と説明変数それぞれに当てはめるデータを時系列・横断面・パネルデータなどから収集します。
ステップ4:予備的分析
データが選定できたら、パラメータの推定を行う前に、エクセルや統計ソフトなどを用いて、利用するデータの特性を把握するための予備的分析を行います。予備的分析では、まず、データの平均値・標準偏差・最大値・最小値などの基本統計量や散布図を確認することが一般的です。
ステップ5:パラメーターの推定
予備的分析でデータの特性を把握したら、最小二乗法などでパラメータと標準誤差の推定値を行います。
ステップ6:仮説検定
計量経済学ではパラメータを推定することが主目的ですが、その際には、推定値の大きさだけでなく、推定値の誤差がどの程度大きいかどうかにも注目します。なぜなら、推定値が得られても、その誤差が非常に大きいと、得られた結果が安定的な法則性を示しているか疑わしくなるからです。t値やp値をもとにパラメータがゼロかどうか、すなわち、統計的に有意であるかどうかを検定し、要因の特定化を図ります。
ステップ7:予測
推定結果を使うと、被説明変数の予測値を算出することもできます。
計量経済学を用いた実証分析の具体例
本章では、回帰分析を用いた推定結果の例を示し、その見方について実践的に解説します。
決定要因の解明:スポーツ選手の年俸はどのように決まるのか
図表3-1は日本と米国の1991年当時のプロ野球選手を観測単位とした賃金関数の推定結果です。ここで、被説明変数は自然対数をとった年俸(1992年の契約年俸)、説明変数は前年の成績を示す変数として防御率の逆数、前年までの実績を示す変数として平均イニング数(1年あたりの通年イニング数)と勤続年数、所属チーム全体の成績を示す変数としてチーム順位の逆数、リーグダミー(日本はパ・リーグであれば1、米国はア・リーグであれば1をとるダミー変数)、FAダミー(フリーエージェント契約の資格保有時に1をとるダミー変数)となっています。この表の推定結果から何が読み取れるでしょうか。
問A:プロ野球選手の年俸の決定要因として何が挙げられますか?
各説明変数のパラメータの有意性をみれば、その説明変数が被説明変数の決定要因になっているかどうか判別できます。表を見ると、各説明変数のパラメータの下に括弧書きでt値が掲載されています。このうち、防御率の逆数、平均イニング数、勤続年数、FAダミーはいずれも2を上回っているため、統計的に有意と判断できます。つまり、これらの説明変数は日米のプロ野球選手の年俸の決定要因といえます。また、チームダミーは日本のが有意となっており、米国とは異なり日本ではチーム全体の成績が個々人の年俸を左右することがわかります。
問B:勤続年数が1年延びると、年俸はどの程度高くなりますか?
推定されたパラメータの大きさに注目すると、説明変数が被説明変数に与える定量的な影響度合いがわかります。ここでは、被説明変数は自然対数をとっているため、Xが1単位増えると、Yは(b×100)%増えると解釈できます。
推定結果から、勤続年数のパラメータは日本では0.05なので、勤続年数が1年延びると年俸は5%増加すると解釈できます。米国では0.13なので、勤続年数が1年延びると年俸は13%増加すると解釈できます。この結果から、日本より米国のほうが、勤続年数への評価が高いことが読み取れます。
問C:前年の成績と過去の成績への評価は、日米でどのように異なりますか
日米の比較すると、防御率の逆数のバラメータはあまり異なりませんが、過去の実績を示す平均イニング数や勤続年数は米国のほうが大きいことがわかります。この結果から、大リーグでは日本よりも前年の成績だけでなく、通算成績も評価する傾向があると推測できます。

最後に
以上、計量経済学の有用性、流れ、実証分析の具体例を解説しました。最低限の知識・ノウハウを理解できていれば、実証分析を正しく実施し、結果を適切に解釈することは可能です。今回のブログでは、具体的な推定方法や様々な種類の推定方法は省略しているので、今後解説します。
参考文献
山本 勲(2015)「実証分析のための計量経済学 正しい手法と結果の読み方」中央経済社
